アンドロイド・ニューワールド
――――――…瑠璃華ちゃんとの通信を終えて。

私は翠ちゃんを伴って、すぐに通信室に向かった。

通信の相手は、勿論第2局の紺奈局長。

突然の通信だったけど、紺奈局長はすぐに対応してくれた。

「紺奈局長…ごめんね、いきなり…」

『…一体どうした?珍しく息を切らして』

向こうからしてみれば、そうだろうね。

我ながら、物凄く狼狽えているのが分かる。

私は、私達は、もしかして。

無意識に、とても重い罪を犯しているんじゃないかと。

そう思ってしまったから。

「…驚かないで聞いてね」

『分かった』

「瑠璃華ちゃん…1027番に、彼氏が出来たらしい」

『そうか』

さすが、紺奈局長。

私と翠ちゃんは、びっくり仰天していたのに。

眉一つ動かさない。

まぁ、瑠璃華ちゃんとは、所属する局が違うっていうのもあるんだろうけど。

『例の、車椅子の少年か?』

「それなら良かったんだけど…実は、別の人なんだって。生徒会長さん」

生徒会長というだけで、名前も聞いてないよ。

何て名前なんだろう。瑠璃華ちゃんは知ってるのかなぁ?

恋人になった人の、名前すら知らない可能性があるんだから恐ろしい。

「好き合って恋人になったんなら良いけど。どうやら瑠璃華ちゃんは、一方的に告白されて、他人との恋人関係が『人間交流プログラム』に有益だと判断したらしくて。別に好きでも何でもないのに、OKしちゃったらしいんだ」

『そうか』

「当然奏君…その車椅子の少年もショック受けてるみたいだし。でも瑠璃華ちゃんには、その理由も分からないし、人との関わりは全部、『人間交流プログラム』の一環だと…自分の近くにいる人間は、全員自分が人間の感情を理解する為の道具だと思ってるみたいで…」

『…』

「それは凄く、傲慢なんじゃないかと思ったんだ。瑠璃華ちゃんのクラスメイトは、瑠璃華ちゃんの勉強の道具じゃない。人間の感情を理解させる為に、私達は『新世界アンドロイド』の子達に、むしろ人間を利用することを教えてるんじゃないか、って…」

それじゃあ意味がない。

彼女達は、人間として、人間の感情を理解しなければならないのに。

アンドロイドとして、人間の感情を高みの見物するようになるんじゃ…。

それは、全くの逆効果だ。

「…何とか言ってよ、紺奈局長」

『…彼らが人間と関わるのは、『人間交流プログラム』の材料にする為、か…。自分は、確かにそうだと思っている』

紺奈局長は、驚くほどあっさりそう言った。

「人間は道具でも材料でもないはずだよ」

『その通りだ。しかし、『人間交流プログラム』では別だ。朱に交わらせて赤くなるには、朱色の絵の具を使わなければならない。それは不可抗力であり、必要条件だ』

「でもその結果、瑠璃華ちゃんは奏君を傷つけてるんだよ?放置しておいて良いはずがない」

『ではどうする?』

どうする、って…。

「…瑠璃華ちゃんに、その生徒会長さんと別れるように言おうと思ってる。愛情もないのに交際するのは、相手に失礼だし…。奏君も、傷ついたままだ」

『…成程。久露花局長は、そう考えるか』

「君はどう考えるの?」

そう聞くと、紺奈局長は。

『…この際だから隠さずに言うが、うちの1110番にも、学校に交際している女性がいるそうだ』

と、衝撃の発言をした。
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