アンドロイド・ニューワールド
「えっ…。嘘…」

『嘘ではない。本人がそう申告していたし、何なら写真も見せてきた。同じクラスの女子生徒だそうだ』

まさか。

瑠璃華ちゃんに彼氏が出来たと聞いたときも、相当驚いたけど。

まさか、1110番…碧衣君にも、彼女がいたとは。

え?でも。

「碧衣君の本命は、君じゃないの…!?」

『…そう思われるのは非常に不本意だが、自分もそう思う』

だよね。

もう、誰がどう見てもそうだよね。

碧衣君は、紺奈局長にしか興味がないんだとばかり。

それなのに、彼女がいる?

「何でそんなことに…?」

『それは『人間交流プログラム』の為だ』

…それは、つまり。

「碧衣君も同じことをしてるの?人間の感情を理解する為に、好きでもない女の子と付き合ってるの?」

『と言うよりは、もっと単純だ。恋人を作るという、いかにも人間らしい行為をしてみれば、自分が考案した『人間交流プログラム』の成果が出て、自分の評価が上がるだろうと目論んでのことだ』

…そんな。

碧衣君は、紺奈局長の株を上げる為に、好きでもない女の子と付き合ってるってこと?

「…それはあまりにも残酷だよ」

その女の子は、自分の彼氏が、自分じゃない他の人の為に自分と付き合ってるだなんて、知りもしないだろう。

自分が少しも好かれてなくて、単に他人の為に利用されていることなんて、知る由もないだろう。

何で紺奈局長は、碧衣君がそんな行為をしていると知っていて、止めないんだろう?

『非情だと思うか?』

「信じられないと思ってるよ」

『そうか』

でも、君は全く動じてないんだね。

「必要なことだと思ってるの?『人間交流プログラム』の為に」

『あぁ。自分の好きな人物に好かれる為に、別の人間を利用するという行為は…確かに残酷だが、しかしその行為は、非常に人間的な行為だ』

そう言った紺奈局長の言葉に、私はハッとした。

『人間の感情は、喜怒哀楽だけの単純なものではない。もっと複雑で、理解し難いものだ。綺麗な感情もあれば、汚い感情もある。自分の利益の為に他人を利用する。言い方は汚いが、人間なら誰しも行う行為だ』

「…」

『1110番は、誰に命じられた訳でもないのに、そのような人間的行為を、自発的に行ってみせた。だから、自分は何も言わずに容認している』

「…でも、いつかはバレると思うよ?」

要するにそれって、人を騙すのと同じことだから。

放っておけば、いずれバレる。

『それならそれで構わない。むしろ自分は、それを望んでいる』

「どうして?」

『傷つける痛みを知らなければ、傷つけられる痛みを知ることは出来ないからだ』

…そう。

君は本当に…合理的だね。

非情な行為なのかもしれない。

だけど紺奈局長の言い分は、実に『人間交流プログラム』の趣旨に沿ったものだ。
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