アンドロイド・ニューワールド
私は、つかつかと湯野さんと悪癖お友達一行のもとに歩み寄り。 
 
「湯野さん」

と、私は言いました。

「…え…な、何よ?」

と、湯野さんは答えました。

まさか、自分達のこそこそ話が、私に漏れているとは思わなかったのでしょうが。

聞こえてしまったからには、無視をする訳にはいきません。

「奏さんを幽霊呼ばわりするのはやめてください。足手まとい呼ばわりするのも。彼は幽霊でもなければ、足手まといでもありません。ちゃんと立派な人格を持った、一人の人間です」

と、私は言いました。

突如として、毅然とした言葉を向ける私に、クラスメイトはぎょっとしてこちらを見ていました。

が、そんなことは関係ありません。

私は、私の親友の名誉を守らなければなりません。

「彼は邪魔な存在ではありません。それはあなた方の偏見であって、人間は皆平等な権利を…」

と、私は言いかけました。

しかし、最後まで言うことは出来ませんでした。

何故なら。

「やめてよ、そういうこと言うの」

と、奏さんは言いました。

奏さんが、です。

私は、思わず口を噤んでしまいました。

奏さんは、湯野さんと悪癖お友達一行ではなく。

他でもない、私を睨んでいました。

「そうやってわざと波風立てられるの、迷惑だから。俺のことはもう放っておいて」

「…ですが…あなたは私の、」

「迷惑だって言ってるよね?言いたい奴には、好きなように言わせておけば良いんだから。放っておいて」

「…」

と、私は黙り込んでしまいました。

今朝方、言われたばかりのことを思い出したからです。

私には、奏さんの気持ちが分かりません。

だから今こうして、私が奏さんを庇うことに対して、奏さんが怒っている理由も分かりません。

それだけ言うと、奏さんは私を無視して、また自分の机を見つめながら、昼食の摂取に戻ってしまいました。

湯野さんと悪癖お友達一行も、しばしぎょっとしたような顔をしていましたが。

「…そ、それでさ、次の五時間目の小テストだけど…」

「あ、うん。私全然勉強してないから、今回のヤバいかも」

「あんた、それいつも言ってるじゃん」

と、湯野さんと悪癖お友達一行は、全く別の話を始めました。

…取り残されたのは、私一人だけ。

私の中の怒りは消え失せ。

その代わりに、またしても身を灼くような深い喪失感が、私に襲い掛かってきました。
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