アンドロイド・ニューワールド
そして、やって来たのは、学校から少し離れたところにある、小さな珈琲店。

入り口も狭いですし、店内もテーブルと椅子が所狭しと敷き詰められていて、何だか窮屈そうです。

車椅子だと、入るのは難しそうなお店ですね。

…。

…何故私は今、車椅子で来ることを前提に考えたのでしょう?

普通の人が入るには、全然支障ないお店なのに。

店内は静かで、低くクラシック音楽が流れていて、とてもシックな雰囲気です。

悪くないお店じゃないですか。

ただ、コーヒー臭が蔓延していて、鼻が麻痺しそうですが。

「ここ、俺のお気に入りの店なんだ。深煎りのブレンドコーヒーがおすすめだよ」

と、生徒会長は言いました。

そうなんですか。

「じゃあ、私もそれにします」

「分かった。じゃあ注文するよ」

と、生徒会長は店員さんに、深煎りのブレンドコーヒーとやらを注文しました。

私、コーヒーってあまり飲んだことがありません。

ラテアートのお店で、エスプレッソコーヒーを飲んだことはありますが。

あのときは、ミルクでナスカの地上絵を精巧に描いていた為か。

かなりミルクが混ざっていて、半ばカフェオレみたいになっていました。

それはそれで美味しかったのですが、ブレンドコーヒーってどんな味なんでしょうね。

しばらく待っていると、店員さんがコーヒーカップを二つ、持ってきて。

その場で、颯爽とコーヒーをカップに注いでくれました。

ありがとうございます。

物凄くコーヒー臭いです。

とてつもなく、苦そうな匂いがしますね。

そして、味はと言うと。

「久露花さん、ミルクと砂糖は?」

と、生徒会長は聞きました。

しかし。

「いえ、まずはストレートで」

「ストレート…ブラックで飲むの?」

「はい」

と、私は答えました。

奏さんも、ストレートで飲んでましたし。

って、何で今、奏さんのことが出てくるのでしょうか。

私は、改めてブレンドコーヒーを飲みました。

が。

「…」

と、私は無言で、口の中の黒い液体を飲み下しました。

…。

「…苦いですね」

「あはは」

と、生徒会長は笑いました。

何がおかしいんですか。私が苦しんでいるというのに。

私は普段から、『Neo Sanctus Floralia』にいた頃も、コーヒーを飲む機会がほとんどありませんでした。

久露花局長は、絶対コーヒーなんて苦いものは飲みませんでしたし。

何ならコーヒーの匂いを嗅いだだけで、「苦い!苦い匂いがする!」と騒いでいたくらいですから。

必然的に、他の局員達も、コーヒーより紅茶派になっていたので。

ある意味、上司によるパワハラですよね。

本当は、コーヒーを飲みたい局員もいたでしょうに。

そんなせいで、ブラックコーヒーなるものを、アンドロイド生で飲んだことがなかった私にとっては。

深煎りのブラックコーヒーは、非常に苦く感じられました。

やはり、普段の食生活は大切ですね。

私には、食事の必要はありませんが。

このようなものを久露花局長に飲ませたら、多分あまりの苦さに、七転八倒しそうです。

それなのに。

「…生徒会長は、そのまま飲むのですね」

と、私は言いました。

生徒会長自身は、砂糖もミルクも入れず、そのまま飲んでいました。

青汁とか、何の抵抗もなく飲めるタイプですか?

「俺は慣れてるから」

と、生徒会長は言いました。

それは結構ですが、私はこのままでは味蕾がダメージを受けそうなので。

潔く、砂糖とミルクを入れさせてもらいます。

これで、多少マシになりましたね。
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