アンドロイド・ニューワールド
「…瑠璃華さん…」

「駄目でしょうか?奏さんにとっては、迷惑でしょうか」

と、私は聞きました。

もし迷惑なのだとしたら…。

私は、きっと…とても、今よりも、深い喪失感に襲われると思います。

想像でしかありませんが、そんな気がするのです。
 
すると。

「…俺もなんだよ」

と、奏さんは言いました。

瞳に、水滴を溜めて。

「俺も同じ。瑠璃華さんを突き放したときからずっと、瑠璃華さんと同じ喪失感を抱えてる。胸にぽっかり穴が空いたような…苦しい気持ち…」 

「…そうなんですか」

と、私は言いました。

では私達、お揃いなんですね。

もし奏さんも、この喪失感の正体が分からないのであれば。

二人仲良く、首を傾げなければならないところです。

しかし。

「そっか、瑠璃華さんも同じ気持ちだったんだ…」

「…奏さんは、この気持ちの名前を知っていますか?この感情の正体…」

「知ってるよ。誰よりよく知ってる」

と、奏さんは言いました。

それは朗報です。

「良かったら、教えて頂けませんか」

と、私は言いました。

それを教えてもらえたなら、私はまた一歩、人間の感情を学習することになります。

「そうだね…教えてあげるよ。俺は…瑠璃華さんの、親友だからね」

と、奏さんは言いました。

「これは、『寂しい』って言うんだ。『寂しい』って感情なんだよ、瑠璃華さん」

「…寂しい…」

と、私は奏さんの言葉を反芻しました。  

その感情の名前を呟いた瞬間。

頭の中にかかっていたモヤが、いきなり、一瞬で晴れたように。

消えてなくなってしまいました。

「そうですか…。これが寂しいって感情なんですね」 

「そうだよ…。俺も、瑠璃華さんも、寂しいと思ってたんだ」

と、奏さんは言いました。

そうですか。

私は、ずっと寂しいと思ってたんですね。

奏さんと会えなくて、話せなくて、寂しいと。

成程、納得しました。 

また一つ、賢くなりましたね。

「あなたはいつも、私の知らない感情を教えてくれますね」

「それはこっちの台詞だよ…。こっちこそ、瑠璃華さんといると、色んな世界が見える。世界が広く見えるよ」

「奇遇ですね。私も同じことを考えていました」

と、私は言いました。

知ってますよ。この現象を何と言うのか。

以心伝心、という奴です。

「…ですから」

と、私は言いました。

「これからも、あなたの隣で、あなたに色んな感情を、教えてもらっては駄目でしょうか。私は、他の誰でもない、奏さんに教えて欲しいんです」

「…俺が教えられることなんて、ほんの少しだけだよ。何せ、俺の世界は狭いからね」

「その世界が知りたいんです。奏さんの見ている世界の景色を、私の見ている世界の景色にしたい」

と、私は言いました。

だってそれって、きっととても素敵だと思いませんか?

ないはずの心が、わくわくするような気持ちになりませんか。
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