アンドロイド・ニューワールド
また笑いましたね。

私にとっては、あまり笑い事ではないのですが。

「分かった、分かった。降参だよ」

と、奏さんは言いました。

それって…。

「私と、親友に戻ってくれるんですか?」

「うん、そうしよう」

と、奏さんは言いました。

そうですか。それは嬉しいです。

私の中にあった寂しいという感情が、一気に喜びに変わりました。

人間の感情の変化というのは、素晴らしいですね。

たった一言で、これほどまでに他人の気持ちを左右出来るのですから。

そして、この感情を私に教えてくれたのは、目の前にいる奏さんなのです。

これは是非とも、これからも末永く、奏さんに教えてもらわなければなりませんね。

もっともっと、たくさんの感情を。

「ありがとうございます、奏さん」

「ううん…。俺の方こそ、ごめん。なんか意地になって…」

と、奏さんは言いました。

何故、奏さんが謝罪するのでしょう。

「生徒会長が、瑠璃華さんに告白したって聞いて…。瑠璃華さんもそれを受け入れたって聞いて…。それ以来、自分のこと見失ってた。やっぱり、自分なんか瑠璃華さんに釣り合わない人間なんだって…」

「…」

「それで、勝手に瑠璃華さんに八つ当たりしてたんだ。本当馬鹿だよ。ごめん…」

と、奏さんは謝罪しました。

…。

そういえば、生徒会長と交際していた頃(極短期間でしたが)も、釣り合いが取れるとか取れないとか、そんなことをひそひそ言われていた気がしますね。

あれって、どういう意味なんでしょう?

「奏さん。謝罪は別に必要ないのですが、一つ質問をして良いですか?」

「え、何?」

「釣り合いが取れるってどういう意味ですか?誰であれ人間であれば、皆さん平等なのでは?誰と誰を組み合わせようが、人間であれば、天秤は傾きませんよ」

「…」

と、奏さんは呆気に取られたまま無言でした。

何か面白いものでも見えたのでしょうか。

そして。

「ま、まぁ…。瑠璃華さんはそういう人だよね…」

と、奏さんは呟きました。

人ではなく、私は『新世界アンドロイド』なのですが…。

…あ。

「でもさ、その。やっぱり、瑠璃華さんは美人だし賢いし、憧れるとかじゃなくて、好きだなぁって思う側からすると、他の男は皆ライバルな訳であって。そうなると生徒会長は、俺なんか歯が立たない存在だから。それでこう、自分がその…瑠璃華さんを好きだなんて、おこがましいと、そう、」

「分かりました。私は人ではなく、『新世界アンドロイド』ですから」

と、私は奏さんがボソボソ言っているのを、遮るように言いました。

「…はい?」

「だから、人間とは釣り合いが取れないと思ったのですね。納得しました。しかし心配は要りませんよ。私は『人間交流プログラム』を受けている身ですから、今は人間も同然です」

「…」

「人間である奏さんとも、ばっちり釣り合いが取れますから。安心して、私のお友達に戻ってください」

と、私は自信満々に言いました。

しかし。

「…俺、結構頑張って告白してるつもりなんだけど…全然伝わってなくて、むしろ笑える…」

と、奏さんは呟きました。

笑える?

それは良いことです。笑いは、人生を豊かにするようですよ。

笑いの種類にも寄りますが。
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