アンドロイド・ニューワールド
これは想定外です。

まさか断られるとは。

授業に遅刻したいのでしょうか?

「何故断るのですか?」

と、私は尋ねました。

あ、もしかして。

「乗り心地を気にしているのですか?確かに、リムジンやファーストクラスの座席に比べれば、私の背中の乗り心地は劣るでしょう。しかし今は、授業に間に合うか間に合わないかの非常時であり、かつ階段を上るという短時間の我慢で済むので、ここは辛抱してもらいたいと、」

「い、いや、そういうことじゃなくて」

「…何でしょうか?」

と、私は聞きました。

乗り心地の問題でないなら、何の…、

「あ、勿論輸送費は無料です。無賃乗車で結構ですよ」

「いや…。あの、そんな人を、荷物みたいに…。いや、今の俺は、実際荷物みたいなものなんだけど…」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

荷物とは何のことでしょう。

「何を気にしているのですか?」

と、私は聞きました。

「女の子に…そんなことさせる訳にはいかないから」

「え?男女差別ですか?」

「そ、そういうつもりはないけど…。でも、女の子に運んでもらう訳にはいかない…って言うか、そもそも誰かに背負わせる訳にはいかないよ」

と、彼は言いました。

謎の理論です。

この世には、大抵万国共通で、「おんぶする」という慣習があるのに。

何故、それを拒むのでしょう?

「俺は東棟のエレベーターで、自分で行くから…。君は、階段を使って。早くしないと、間に合わなくなるよ」

「…」

と、私は無言で考えました。

そして、結論を出しました。

「…分かりました。では、私も東棟のエレベーターでご一緒しましょう」

「え?」

と、車椅子の男子生徒は首を傾げました。

が、私は気にせず、彼の車椅子のハンドルを握りました。

そして、東棟に向かって歩き始めました。

「ちょ、ちょっと待って。何やってるの?」

と、車椅子の男子生徒は尋ねました。

「見ての通り、車椅子を押しています」

「そ、そうじゃなくて…!何で一緒に来るの?」

「説明を求めますか?長くなりますけど良いでしょうか」

「え?い…良いよ」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

では、お言葉に甘えて。

「理由は四つあります」

と、私は言いました。
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