アンドロイド・ニューワールド
「一つ目は、世の中には『死なば諸共』という言い回しがあります。どうせ一人遅刻するなら、二人遅刻したところで、大した問題ではありません」

と、私は言いました。

どうせ、このままではこの車椅子の男子生徒は、授業に遅刻してしまうのですから。

そこに私がもう一人加わっても、大した問題ではありません。

更に。

「二つ目は、あなたには恩があるので、その恩返しです」

「恩返し…?」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

「はい。転入初日、私に購買部の所在地を教えてくれたことを覚えていますか?」

「あ…。それは…」

「忘れていましたか?」
 
「いや…。忘れてはないけど、でも…そんな、返してもらうような恩じゃないよ…」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

謙遜しているのでしょうか。

それでも私は、恩返しをするに値する行為だと判断しているので。

大人しく、恩を返されてください。

「三つ目は、あなたが最後の一人だからです」

と、私は言いました。

「最後の一人…?どういう意味?」

と、車椅子の男子生徒は聞きました。

「私の友達作りの一環です。クラスメイト全員に声をかけて回っているのですが、なかなか色の良い返事がもらえずに、困っているところです。そしてあなたが、まだ声をかけていない最後の一人です」

「…」

「つまり、どうせあなたには声をかけるつもりだったので、ついでということですね。…どうせ遅刻は確定していますし」

と、私は言いました。

私達が東棟に向かっている間に、授業開始を告げるチャイムの音が、校舎内に響き渡っていました。

これでもう、何をしても無駄ですね。

もう遅刻しているのですから、どうせなら派手に遅刻しましょう。

何事でも、やるなら全力で、と偉人達も言っていましたし。

今こそ、その精神を活かすべきでしょう。

「…じゃあ、四つ目の理由は?」

と、車椅子の男子生徒が尋ねました。

「四つ目ですか?四つ目は…」

と、私は少し考えてから、

「…何となくです」

と、私は言いました。

「…」

これには、車椅子の男子生徒も無言で、そして呆気に取られていました。

私の方も、特に思いつかないのです。

自分が何故、このような行為をするのか。

授業に遅刻すれば、何らかのペナルティが与えられるかもしれないというのに。

そんなリスクを犯してでも。

何となく、放っておけない気がしたのです。

何故なのでしょう?不思議な感覚です。

久露花局長に聞けば、答えをくれるでしょうか。

まぁ、どうせ過ぎたこと。後の祭りという奴です。

「気にせず、存分に一緒に遅刻しましょう。大丈夫です。授業に遅刻したから教師に殺された、というニュースは、未だ聞いたことはありません」

「…それは、俺もない」

「そうですか」

なら、安心ですね。

それに、もし教師が、遅刻した私達に向かって、火炎瓶片手に襲ってきたとしても。

そのときは、私が戦うとしましょう。

相手が私と同じ『新世界アンドロイド』でない限り、多分勝てるでしょうから。
< 56 / 345 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop