アンドロイド・ニューワールド
ようやく、東棟に辿り着きました。

エレベーターのボタンを押し、しばらく待機していると。

「…あのさ、一つ聞いても良い?」

と、車椅子の男子生徒が尋ねました。

「遠慮しているのですか?一つと言わず、三つ四つ聞いてくれても構いませんよ」

と、私は答えました。

「あ、いや…。一つで良いんだけど…」

「そうですか。あなたは謙虚な方ですね」

「…」

と、男子生徒は無言でした。

褒めたつもりなのですが、何故黙るのでしょう。

「…久露花さん、だっけ」

と、男子生徒は口を開きました。

私の名前の確認のようです。

「はい。久露花瑠璃華と申します」

「久露花さんは、その…。どうして、いつもそういう…キャラ作り?をしてるの?」
 
「…?」

と、今度は私が首を傾げました。

「久露花さんは、それで楽しいのかもしれないけど…。周りの皆は、良く思ってないよ」

「…そうですね。どうやら私は、周囲から敬遠されている、と言うか嫌悪されているようです。自分でも理由が分かりません」

「…そのキャラ作りのせいじゃないの?」

と、車椅子の男子生徒は言いませんでしたか。

先程から、何度か頻出していますが。

そしてこれまでも、何度となく言われた記憶がありますが。

「どういう意味なのですか?その、キャラ作りという言葉は」

「…」

「キャラとは、キャラクター、つまり個性、性格のことですか?個性を問われましても、これが私のありのままですから、変えろと言われて変えることはなかなか難しいですね」

と、私は言いました。

「しかし、良い観点ですね。私の『新世界アンドロイド』としての個性が敬遠されているのだとしたら、私は永遠に、人間の友達を作ることは出来ないでしょうね」

と、私は言いました。

非常に困難な状況に置かれている、と言っても過言ではありません。

すると。

「…君も人間でしょ?」

と、車椅子の男子生徒が聞きました。

「?いいえ、始めに言ったように、私は人間ではなく、『新世界アンドロイド』です」

「…そういう設定の、人間でしょ?」

「人間のように振る舞えとは言われましたが、人間ではありません。私は『新世界アンドロイド』です」

「…」

と、車椅子の男子生徒は、無言でした。

…すると。

「…ふふ」

と、車椅子の男子生徒は笑いました。

笑われました。およそ一週間前から始まった学生生活の中で、初めての経験です。

これまでも、湯野さん含むクラスメイトに、笑われたことはありますが。

彼女達のような、ニヤニヤクスクスの悪癖笑顔ではない。

研究所で、久露花局長や朝比奈副局長が、私に向けてくれる類の笑顔です。

驚きました。

この世界の高校生達は、きっとそういう笑顔は出来ないのだと思っていました。

あまりにも、悪癖笑顔を見慣れ過ぎて。

私は人類を侮っていたのでしょうか。申し訳ありません。

しかし、笑われた理由は分かりません。

「何か面白いものでも見えたのですか?」

と、私は尋ねました。

同時に、丁度エレベーターが、二階に到着しました。

これから、西棟の端っこにある理科室に向かうことになります。

「いや…面白いものって言うか、君が面白いなって」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

なんと。

衝撃の事実です。

「私が面白いのですか?」

「うん、一周回って、むしろ面白いなって」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

私に心はありませんが、大変な衝撃を受けています。
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