アンドロイド・ニューワールド
「何故入れないのですか?バドミントンなら、車椅子でも可能なはずです」

「…俺もそう思って、駄目元で頼んでみたんだ。バドミントン部の顧問に…」

と、緋村さんは言いました。

何故駄目元なのでしょう。

何も疚しいことがないのですから、堂々と頼めば良いのです。

あなたは、他のクラスメイトと同じ、星屑学園の生徒の一人なのですから。

どの部活動にも、等しく加入する権利があります。

「でも、断られた。星屑学園のバドミントン部は、この地域では強豪校だから…。車椅子の生徒に入部されたら困る、って…」

「…」

「車椅子バドミントンに対応した設備もないし、俺一人の為に、そんな設備を用意する予算もないから、って…断られた」

「…」

「…別に、傷つきはしなかったよ。そう言われるだろうって思ってたし…。…仕方ないよ。こんな身体なんだから…。無理して入部して、他の部員に迷惑もかけたくなかったし…」

…と、緋村さんは言いました。

傷つきはしなかったと、彼は言いました。

しかし、彼が傷ついていることは、誰が見ても明らかです。

人の感情を持たない、私にも分かるくらいに。

「小学校のときまでは、地域のバドミントンクラブに入ってたんだけど…。あの事故以来…もう、やってない」

「…」

「あ…。えぇと、なんか湿っぽい話になっちゃったな。別に気にしなくて良いよ。俺も、もう諦めてるし…」

「…成程、分かりました」

「え?」

と、緋村さんは首を傾げていましたが。

構わずに、私は彼の車椅子のハンドルを握りました。

「では、行きましょう」

「え、ど、何処に?」

「体育館です。バドミントンですから、体育館でやらなくては」

「え、えぇっ!?や、やるって、何で?何を?」

「バドミントンですよ。あなたの趣味なのでしょう?」

と、私は車椅子を押しながら言いました。

「そ、それはそうだけど、でも俺はバドミントン部に入れなかったし、それに車椅子じゃ…」

「この世には、車椅子に乗っている人間が、バドミントンをしてはいけないという規則はありません。ようは、創意工夫の問題です」
 
「え、えぇ?」

「バドミントン部の顧問、とやらはどの教師ですか?」

と、私は聞きました。

「い、いや、ちょっと待って久露花さん。俺は別に…」

「教えてください。あなたの入部を断った、バドミントン部の顧問は誰ですか?」

と、私は聞きました。

自分でも意識していなかったのですが。

そのときの私は、かつてないほどに真剣な目をしていました。

その目に気圧されたのか。

「…いつもの、体育の先生だよ。女の先生…」

と、緋村さんは恐る恐る答えました。

思い出しました。

私がサーブの練習をする為に、緋村さんを誘おうとしたとき。

それを遮って、私と自分を組ませた、あの体育教師ですね。

そして、奇数と偶数の区別のつかない体育教師。

「成程、理解しました」

「え、な、何を?ちょ、久露花さん、まっ…」
 
「ちょっと黙っててください」

「え、えぇぇ…」

と、緋村さんは納得行かなそうに。

しかし、言葉を失っていました。

そのとき、私は緋村さんの車椅子を押していた訳ですが。

その速度は、いつもの1.5倍になっていました。

私は、無意識の行為だったので、気づいていませんでしたが。
< 74 / 345 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop