アンドロイド・ニューワールド
「理由を説明します。まず、あなたは三年前、ここにいる緋村さんの入部を断ったそうですね」

「え、ちょ、久露花さ、」

「緋村さんは黙っててください」

と、私は三度、緋村さんに言いました。

緋村さんと、私がこの体育教師を嫌いであることとは、何の関係もありません。

確かに、緋村さんがきっかけであることは事実ですが。

それはそれです。

「しかも、彼のハンディキャップを理由に。あなたのそれは、理由になっていません。お宅のバドミントン部が強豪だから、何故彼の入部を断る理由になるのですか?」

「…それは…確かに、そんなこともあったけど…」

と、体育教師は言いました。

まるで、私に指摘されるまで、そんなことは覚えてもいなかったという風に。

「そういえば、先日の体育の授業でも、彼を勘定に入れていませんでしたね。あのときは、あなたは奇数と偶数の区別のつかない、算数の授業を受けていない教師なのだと思っていましたが…」

と、私は言いました。

今回、緋村さんが入部を断られた件で、推測するに。

「あなたは奇数と偶数の区別がついていないのではなく、緋村さんのハンディキャップを理由に、敢えて彼を授業に参加させていないのですね?」

「それは…。でも…。彼は車椅子なのに、どうやって…」

と、体育教師は言い訳を始めました。

どうやって、ですって?

おかしなことを言うものです。

「やりようは、いくらでもあるはずです。創意工夫の問題です。車椅子の緋村さんでも参加出来るよう、考えることは出来るはずです。私には、あなたが思考を放棄しているようにしか見えません」

「ちょ、久露花さん、それは」

「四回目。緋村さんは黙っててください」

と、私は言いました。

「あまつさえ、誰でも等しく入部可能なはずの部活動参加を拒否するとは。それで強豪とは、面白い冗談です。個を大切にしない集団ほど、脆い集団はありません」

と、私は続けて言いました。

「何故なら、集団が個を大切にしなければ、個もまた、集団を大切にしないからです。ひたすら個人のことしか考えない集団は、それはもう集団ではありません。ただの個人が寄り集まっているだけです。集団としての団結力や結束力は、驚くほどに弱い」

と、私は更に言いました。
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