アンドロイド・ニューワールド
では、本題に入りましょう。

「さぁ、それでは二人でバドミントンを始めましょう」

と、私は緋村さんにラケットを渡しながら言いました。

「い、いや…。えぇと、どうやって…?」

と、緋村さんは聞きました。

「あれ?ルールはご存知なんじゃなかったんですか?」

「そ、それは知ってるけど。でも出来ないでしょ。この身体じゃ…」

「車椅子バドミントンは、普通に競技として存在していますよ?」

「でも、それは専用の車椅子じゃないと。俺の車椅子は、そんなに機敏に動けない」 

と、緋村さんは言いました。

成程、確かにあなたの車椅子は、スポーツ用にカスタマイズされたものではありません。

従って、専用の車椅子と比べて、機動力に劣ります。

しかし、問題はありません。

「なら、変えられる方を変えましょう。コートの大きさを、正規のルールより更に小さくします」

「えっ」

「元々このスペースは、正式なバドミントンを行えるほど広くはないので、丁度良いです。車椅子バドミントンそのものが、通常のバドミントンコートの半分の広さですから…更にそこから小さくして…」

と、私は言いながら。

空きスペースの四隅に、卓球部のピンポン球を並べて回りました。

これが、コートの位置を示している目印となります。

「はい、これでだいぶ、動きやすくなりませんか?」

「え、えっと…」

「あ、ネットがありませんね。ネットの代わりは…これにしましょう」

と、私は言いました。

ゴロゴロと引き摺ってきたのは、卓球部のスコアボードです。

スコアボードをコートの真ん中に置いて仕切りを作り、ネットの代わりにします。

うん、高さ的にも良い感じです。

「さぁ、これで出来上がりです。それじゃ始めましょうか」

「いや、ちょ、ちょっと待って。俺、車椅子になってから、ラケット握ったことは一度も…」

「問題ありません。あなたの車椅子の可動領域は、既に把握しています。点数を競うつもりはないので、別にコートからはみ出して、明後日の方向に飛ばしてくれても結構です。必ず、あなたが打ち返せる場所にシャトルを飛ばします」

「え、そ、そんなことが出来…」

「では始めますね。はいっ」

と、私は言いました。

シャトルを宙に放り投げ、ラケットでそれを打ちました。

正規のサーブではありませんが、この試合もまた正規のものではないので、ノーカウントです。

ようは、バドミントンの醍醐味、ラリーをして楽しめればそれで良いのです。

「う、うわっ」

と、緋村さんは狼狽えながら、飛んできたシャトルにラケットを振りました。

さすがは元バドミントンクラブ所属、久々にラケットを握ったにも関わらず、シャトルを打ち返すことに成功しました。

が、彼が打ち返したシャトルは、スコアボードのネットを越える高さではありません。

このままでは、シャトルはスコアボードにぶつかって、彼のコートに落ちてしまうでしょう。

それでは、ラリーは続きません。

そして私は言いました。

どんなに明後日の方向に打っても、必ず緋村さんが打ちやすいようにシャトルを返すと。

ならば、私のするべきことは。

私は、一瞬の間に演算処理システムを稼働させ。

シャトルの軌道計算をしながら、助走をつけてスライディングし、スコアボードの下を潜り抜け。

まさに今、スコアボードにぶつかろうとしていた低いシャトルを、更に低い位置からラケットで打ちました。

ポーンと、空中に高く。

それを見た緋村さんは、驚きながらも、車椅子を少し下げて、シャトルの落下予測地点に移動。

よし、これで打ち返せますね。

それが終わると、私は跳躍してスコアボードを飛び越え、緋村さんのコートから、自分のコートに戻り。

緋村さんが打ち返すであろうシャトルが、いつ来ても良いように構えました。

ここまで、僅か5秒足らずの出来事でした。

これで、ラリーを継続出来ますね。
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