アンドロイド・ニューワールド
…およそ、一時間後。

「はぁ…はぁ、疲れた…」

と、緋村さんはラケットを持つ手を、ダラリと垂らして言いました。

額に汗をかいていて、本当に疲れた様子です。

「大丈夫ですか?」

「…うん…。久し振りに運動したら…結構来るね」

と、緋村さんは言いました。

日頃運動不足なのですね。

体育の授業はいつも、あんな風に除け者にされ。

部活動への参加も拒否されているのですから、それは運動不足にもなるでしょう。

「久々に、身体動かしたよ…」

「そうですか。明日は筋肉痛ですね」

「本当…。でも、楽しかった」

と、緋村さんは言いました。

とても爽やかな笑顔です。

彼のこんな顔は、初めて見たような気がします。

何かが吹っ切れたような、そんな笑顔です。

私は、緋村さんを笑顔にしてあげられたのですね。

これは大きな成果です。

「それにしても、久露花さんは」

「はい。何でしょう?」

「本当に運動神経良いんだね。本当に有言実行で、全部俺が返しやすいように打ってくれて…。凄いコントロールだ」

と、緋村さんは言いました。

「これは運動神経ではなく、私の脳内の演算処理システムが、シャトルの軌道と、あなたの車椅子の可動領域を計算して、どの角度で、どれくらいの力を入れて打ち返せば良いのかを教えてくれるからです」

と、私は説明しました。

私は単に、脳内の演算処理システムの言う通りに動いているに過ぎません。

「うん…。本当に、そんな感じ。物凄い…何だか、もうプロの人みたい」

「…」

と、私は思わず無言になりました。

本当に、と言われても、本当なのですが。

「はぁ…。久々に身体動かして、スッキリした…」

「良かったですね」

「ありがとう、久露花さん。こんな楽しい時間は、本当に久し振りだよ」

と、緋村さんは言いました。

とても良い笑顔です。

湯野さんと悪癖お友達一行の笑顔とは、比べ物になりません。

そのとき、私は何故か。

出来ることならまた、彼のこの笑顔を見たいと思いました。
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