アンドロイド・ニューワールド
「まずは深海魚の定義から。深海魚とは、水深200以上の深海に住む魚介類のことを指します」

と、私は説明しました。

「一般的に深海魚と聞けば、人間は『キモい』、つまり気持ち悪いという印象を持ったり、怖がったり、敬遠されがちな生き物ですが、しかしその実態は、そこらの人間よりも素晴らしい機能を有していると評価しています」
 
「…そうなの?」

「はい。まず彼らは、深海という、ある種の暗黒空間に生息しています。陽の光が届きませんからね。そして水深が深くなるにつれて、身体にかかる水圧も高くなります」

「あ、それは聞いたことがある」

と、緋村さんは言いました。

良かったです。予備知識があって。

「彼らは暗い空間と低酸素状態の中、凄まじい水圧に耐えながら生息している訳です。尊敬に値しますね」

「…久露花さん、ちょっと憧れてる…?」

「私の個人的なおすすめは、やはりまずはグソクムシですね。有名どころですが、奴らはダンゴムシの仲間でありながら、ダンゴムシの頂点に立つ生き物と言っても過言ではないでしょう。ダンゴムシを舐めてかかっている者には、是非ともグソクムシと戦わせてみたいものです」

「…やっぱり憧れてるんだ…」

「次におすすめなのは、ミツクリザメですね。こちらは非常に長い吻を持っているのが特徴で、顎の突き出たスタイリッシュな外見をしています。この特徴的な顎を使って捕食をする訳ですね。その見た目から、ゴブリンシャーク、つまり悪魔のサメとも呼ばれています。実に的確な表現です」

「そうなんだ…。なんか格好良いね…」

「最後のおすすめはラブカですね。何となく可愛らしいネーミングですが、その外見は『ザ・深海魚』とも呼べるほどにグロテ、いえ、インパクトがあります。こちらもサメの一種ですね。口元に6枚の赤いヒダのようなエラがついているのが特徴で、一度見たら忘れられない魅力があります」

「そう…。深海魚好きなんだね、久露花さんは…」

と、緋村さんは言いました。

「本で読んだ知識があるだけで、別段好きという訳ではありませんが」

「でも、何だか生き生きして喋ってるように見えるけど」

「そうですか?」

「うん」

と、緋村さんは頷きました。

そうなんですか。

私、深海魚好きなんですかね?

よく分かりませんが、そういえばあの本を図書室で初めて読んだとき。

これは興味深いと思って、ミツクリザメの写真が載ったページを開いて、久露花局長に見せに行った記憶があります。

悲鳴をあげられましたが。

「緋村さんは、深海魚に興味はありますか?」

「え?うーん…どうだろう?見てみたくはあるけど、見たら後悔しそうな気がする…」

と、緋村さんは言いました。

つまり、まるっきり興味がない訳ではない、ということですね。

楽しんでもらえたなら、幸いです。
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