アンドロイド・ニューワールド
「それではリクエストにお応えして、食虫植物について話しますね」

「…リクエストした覚えはないけど…。はい、どうぞ」

「まず食虫植物の定義から。食虫植物とは、その名の通り、虫を捕食して栄養分にする植物のことです」

と、私は説明しました。

おっと、忘れるところでした。

「そしてこの話の出典は、先程紹介した本のシリーズから、『猿でも分かる!初心者の食虫植物』です」

「…凄い本が出てるんだね…」

と、緋村さんは言いました。

このシリーズは、世界の様々な分野について、それこそ猿でも分かるように。

アンドロイドでも分かるように、一冊でまとめています。

知識を収集する為には、最適なシリーズだと思っています。

「さて話を戻しますが、食虫植物と言えば、昆虫のみを栄養分にしていると思われがちですが、奴らは案外、普通の植物のように、光合成もちゃんとしています」

「へぇ…」

と、緋村さんは言いました。

感嘆符ありがとうございます。

「有名どころで言うなら、ウツボカズラや、ハエトリグサでしょうか。こいつらは、一般家庭でも昆虫除けの為に飼育されていることが多いですね」

「あ、それは聞いたことがある。置いたことはないけど」

「基本的に食虫植物は、口を開けた状態で待機しており、私は人畜無害ですみたいな顔をして昆虫を安心させ、おびき寄せられた獲物が近寄ってきたら最後、最早逃げることは不可能です。獲物達は食虫植物の消化液で溶かされ、美味しく頂かれることになります」

「…」

と、緋村さんはごくっ、と無言で唾を飲み込みました。

「ちなみに捕食方法にも種類があって、落とし穴式、粘着式など、各種獲物を捕らえるトラップを兼ね備えています。一般的にはグロテ、いえ、インパクトのある外見をしていると思われている食虫植物ですか、中には、まさに人畜無害、普通の植物とまるで見分けがつかない食虫植物もあります。人間で例えるなら、会社では優しい上司、家に帰ればDV夫、のようなものですね」

「…例え…」

「そして、人間は食虫植物をあくまで、虫を食べる植物だと認識しているようですが、それは誤った認識だと思った方が良いでしょう」

「え…そうなの?」

と、緋村さんは首を傾げました。

「はい。食虫植物の中には、虫だけでなく、ネズミを捕食する食虫植物もいるとか。こうなると、もう食虫ではなく、食哺乳類植物ですね。そして、人間もまた、哺乳類の一種です。ここまで言えば…もうお分かりですね?」

「…」

このときの、緋村さんの顔。

言葉にして例えるなら、「え?マジで?」でしょうか。

「世の中には、まだまだたくさんの未知の植物が生息しています。中には、人間サイズの生き物でも、容易く呑み込んでしまう植物もあるかもしれません。…夢が膨らみますね」

「…」

「まぁ、人間ではない私には関係ないですが。人間である緋村さんは、是非とも気をつけて生活してください」

「…怖っ…」

と、緋村さんは若干青い顔で言いました。

興味深い反応です。

「…しかも、また久露花さん、ちょっと楽しそうだし…」

「そうですか?」

「うん…」

と、緋村さんは頷きました。

自分では無意識なのですが。

そういえば、以前この本を図書室で見つけたとき。

拡大されたウツボカズラの写真が載ったページを、久露花局長に見せたところ。

腰を抜かされましたね。

「緋村さんは、食虫植物に興味はありますか?」

「え?えーと…。見てみたい気はするけど…近寄りたくはないかな…。さっきの話聞いてたら…」

「そうですか」

と、私は言いました。

つまり、興味がない訳ではないということですね。

楽しんでもらえたなら、幸いです。
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