アンドロイド・ニューワールド
…が。

彼の打ったサーブは、コートからやや右方向に逸れた…どころか。

全く飛距離がなく、ネット代わりのカラーコーンを飛び越えるどころか。

カラーコーンの遥か手前、ほぼ自分の目の前の床に、叩きつけるようなサーブでした。

これではサーブと言うより、ボールを床に叩きつけているようなものです。

しかし、私は言いました。

必ずキャッチすると。

従って、私は緋村さんの打ったボールが、床に着弾する前に。

スライディングで彼のコート内に滑り込み、目にも留まらぬ速さで、彼の打ったサーブをキャッチしてみせました。

『新世界アンドロイド』だからこそ、出来る芸当です。

「…」

これには、緋村さんもびっくりして、言葉を失っていました。

「はい、ちゃんとキャッチしましたよ」

「…久露花さん…の、反射神経って…どうなってるの…?」

と、緋村さんは呆然とした声で尋ねました。

「私の反射神経ですか?『新世界アンドロイド』の反射神経は、人間で言うと脊髄反射より速く…」

「あ、いや…良い、大丈夫…。うん、分かったから」

「そうですか」

と、私は言いました。

納得してもらえたようで何よりです。

すると。

「あの…ごめん。凄くみっともない感じになっちゃって…」

と、緋村さんは謝罪しました。

何に謝罪しているのか、理解不能です。

「何事も、初めての行為であれば、失敗するのは恥ずかしいことではありません」

と、私は言いました。

ましてや彼の場合、入学以来、全く体育の授業に参加させてもらっていないのですから。

筋力も衰えているでしょうし、身体の方もこのような運動には不慣れでしょう。

見学はしていたとしても、実際に自分がやるのとでは、全く違います。

「むしろ、人間は失敗から学ぶ生き物だと言います。何回失敗しても構いません。数をこなせば、少しずつ上達し、いずれは呼吸するのと同じく、簡単なことになるでしょう」

と、私は言いました。

これは、『Neo Sanctus Floralia』の理念の一つでもあります。

練習段階では、いくら失敗しても構わない。

ひたすら回数をこなし、失敗を繰り返し。

その失敗を糧に、着実に自分の力を身に着けていけば。

いずれその力は、揺るぎないものに変わることでしょう。

「…うん、ありがとう。久露花さん」

と、緋村さんは言いました。

何故か瞳が潤んでいるようにも見えるのですが。

あ、生理現象でしょうか?あくびが出たとか。

ともあれ。

「ではもう一度やってみましょう。ご安心ください。『新世界アンドロイド』は単体で大気圏を突破出来るので、例え宇宙の彼方に飛ばしたとしても、必ずキャッチして戻ってきます」

「ふふっ…。それは頼もしいな。じゃ、宇宙まで飛んでいっても、戻ってきて」

「了解しました」

と、私は言いました。
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