アンドロイド・ニューワールド
そんな風に、緋村さんとサーブの練習を続けること、およそ10分。

今のところ宇宙進出はしていませんが。

よく考えたら、私は大気圏を突破出来ますが。

多分、その前にボールが弾けて死亡しますね。

ならば、宇宙進出の夢は叶いそうにありません。

残念です。

すると。

「あっ、ごめん!」

と、緋村さんは腕を振り下ろした格好で言いました。

彼の打ったサーブは、他のクラスメイト達が練習ているコートの方向に飛んで行きました。

少しずつ、力が乗ってきましたね。

良い傾向です。

そして、私のやるべきことは。

瞬間的に筋力を向上させ、私は彼の飛ばしたボールの方向に走りました。

「うわっ」

「失礼します」

と、私は言いながら。

そこで練習していた、男子生徒の前に飛び出て、緋村さんのボールをキャッチしました。

自分で言うのも何ですが、ナイスキャッチです。

しかし、いきなり目の前に私が滑り込んできた為か。

そこで練習中だった男子生徒は、不満顔でした。

「っ、何だよ。危ねぇな」

「失礼しました」

と、私は答えました。

ソフトバレーボールなので、当たったところで、大したダメージはないと思われますが。

「つーか、何やってんだよ?自分が誰にも相手にしてもらえないからって、あんな幽霊野郎の相手してんのか?」

と、男子生徒は苛立ち紛れに言いました。

「…幽霊とは何のことですか?私がホラー映画を観た感想を話したとき、局長がビビり散らかしてるアレですか?」

「は?緋村の腰抜け野郎に決まってるだろ」

「…」

と、私は無言になりました。

「まぁ、お似合いなんじゃねぇの?クラスの電波と幽霊がセットでさ。うぜぇから、俺らの前に出てくんなよ」

「…分かりました」

と、私はボールを持って立ち上がりました。

この人は何故か、とても怒っているようです。

カルシウムが足りていないのでしょうか。

今度、彼のロッカーに牛乳を差し入れておきましょう。

きっと、イライラが収まることでしょう。

さて、それはともかく。

「緋村さん、無事取ってきましたよ」

「…うん…」

と、緋村さんは俯いて頷きました。

何故でしょう。

さっきまで、意気揚々と練習していたのですが。

疲れたのでしょうか?

それとも、明後日の方向に飛ばしてしまったことを、悔いているのでしょうか。

「大丈夫です。私も起動初期の頃は、発射したミサイルの着弾予測地点を大きく外れて、局長の部屋を破壊したことがあるので。気にすることはありません」

と、私は励ましました。

あのときの出来事を振り返って、久露花局長は一言。

「死ぬかと思った」

と、真顔で言っていました。

でも生きているので、どうやら久露花局長の命運はまだまだ尽きていないようです。

だから、緋村さんも気にすることはありません。

しかし。

「いや…。俺は、もう良いや。さっきから、ずっとやってるし…」

と、緋村さんは言いました。

「次は、久露花さんが練習したらどうかな」

「私がですか?…分かりました」

と、私は答えました。

多分、緋村さんは疲れてしまったのでしょう。

普段使っていない筋肉を使えば、疲労が蓄積するのは当然です。

では、残りの時間は、私の練習に費やすとしましょう。
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