アンドロイド・ニューワールド
3秒ほどたって、ようやく。

「…それはどういう意味でしょうか?」

と、私は聞きました。

私としたことが、反応が遅れてしまいました。

「言葉通りの意味だよ…。もう、俺から離れた方が良い…」

と、緋村さんは言いました。

私から視線を逸らし、何かを諦めたような顔で。

「何故私があなたから離れた方が良い、とあなたが判断するのか、その理由を聞かせてください」

と、私は説明を求めました。

「…聞いたでしょ?俺が、クラスで何て呼ばれてるか」

「?」

「幽霊って呼ばれてる。中学校のときから、ずっと…」

と、緋村さんは言いました。

成程、幽霊とは何のことだろうと思っていましたが。

その言葉は、緋村さんを指す言葉だったのですね。

「そんなあだ名だったんですね」

「あ、あだ名って言うか…」

「しかし、何故幽霊なのですか?私も、ホラー映画は何度も観たことがありますが、映画に出てくる幽霊とあなたに、共通点があるようには見えませんが」

と、私は聞きました。

ホラー映画に出てくる幽霊を、久露花局長に見せたら、きっと悲鳴をあげるでしょうが。

緋村さんを久露花局長に見せたら、少しも驚かないと思います。

「足がなくて、影が薄いから。俺がいるだけで、しょっちゅう皆に迷惑を掛けるから…。だから、幽霊なんだよ。俺は」

「成程、確かに一節によると、幽霊には足がないと言います。しかし、それを言うなら幽霊ではなく、オバケなのでは?」

「…それは知らないけど、とにかく俺は、クラスの皆に嫌われてるんだよ」

と、緋村さんは言いました。

クラスメイトの皆さんに、聞いたのでしょうか。

俺達私達は、お前のことが嫌いだ、というクラスの総意をぶつけられたことがあるのでしょうか。

それは気の毒です。

「あなたがクラスメイトに、迷惑をかけているとは思えませんが」

「かけてるんだよ。俺が一人いるせいで、今まで散々皆に迷惑をかけてきた」

「具体例をお願いします」

「…中3のときの、修学旅行」

「修学旅行ですか?」

と、私は尋ねました。

生徒達が、引率の教師と共に、学外に旅行に行くイベントですね。

行ったことはありませんが、知識として知っています。

「星屑学園の修学旅行は、毎年海外のリゾート地に行くのが習慣なんだ。でも、俺達の年は…国内旅行になった」

「…なぜですか?」

「俺のせいだよ。車椅子の俺が遠い海外に連れていくには、引率の教師の数も増やさなきゃならないし、手間がかかる。それに、リゾート地に行っても、俺は泳ぐことが出来ないから…。色々理由つけられて、俺達の年だけ、国内旅行に変わったんだ」

と、緋村さんは言いました。

思い出したくないことを、無理矢理絞り出すような顔で。

「クラスメイトにとっては、つまらない旅行だった。皆、海外の修学旅行を楽しみにしてたから。星屑学園の修学旅行は、ある種の名物にもなってる。何なら、その修学旅行に行きたいから、星屑学園に入学する生徒もいるくらい」

と、緋村さんは言いました。

学校選びとしては、不順な動機ですね。

「それが俺のせいでフイになって、国内旅行になって…その行き先も、楽しいテーマパークとか、観光地巡りじゃなくて…。俺の移動が少なくて済むように、劇場観劇や、工場見学とか、そんなものばかりで…」

と、緋村さんは言いました。

私にとっては、どれも興味深いですが。

クラスメイト達にとっては、つまらない行事なのですね。
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