傾国の姫君
「そうだ。慶文、おまえもその可能性があるぞ。」

夫の慶文は、はははと笑った。

「俺はそんな優秀じゃない。」

「何言ってるんだよ。知識だって人には負けてないぜ?」

昇龍さんは、必死に夫を説得している様子だった。

「もう、その為の役人は、この村に入っていると言う。」

「早いな。」

「そうなれば、慶文。役人がおまえの才能を聞きつけるのも、直ぐだ。」

「そんな事言ってもな。」

夫の慶文は、そんな話、上の空で聞いている。

「役人になれば、今より贅沢な暮らしができる。考えておくんだな。」

そう言って昇龍さんは、自分の家に戻って行った。


「やれやれ。」

夫も立ち上がると、正英を抱っこして、家の中に入った。

私はその話が、不思議に頭に残っていた。

「昇龍さんの話も、一理あると思うわよ。」

「おいおい、心我まで本気にするのか。」

慶文は、元々欲がない人だった。

夫の両親が、彼に用意した勉強も、宝の持ち腐れだ。

「ほら、もし慶文が中央の役人になったら、私達も中央に行けるのでしょう?」
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