月光蝶
そこから先は驚く程に時間の進みが早く思えた。
病院、会館、葬儀場。火葬場……
普段顔を合わせない大人たちが次々と黒服で現れる中、僕は大事なことを二つも見落としていた事に気が付いた。
一つは、うちの父は完全な『駄目親父』ではなかった事。
よくある駄目親父といえば、仕事にも行かず毎日酒を飲み暴力を振るう、といった感じだろう。
しかし、うちの父は働く事を放棄していた訳ではない。
それどころか会社の関係者が次々とやってきては涙を浮かべているところを見ると、信頼はそれなりに厚かったと思われる。
それに、僕たちはこれから成長期に差し掛かろうとしている。母のパートの賃金だけで生活していくのは困難だろう。
そしてもう一つは利香の事だった。
うちの両親は再婚で。僕は母の連れ子、利香は父の連れ子。
「ねぇ、お父さんもこの箱に入ったら長いお出かけなの? 前のお母さんみたいに?」
前の母とも死別し、唯一血の繋がっていた父さえも失った利香。
いくら半信半疑だったとはいえ―――僕は、何て事をしてしまったんだろう。
死を理解していないが故に涙を流さない利香を見て、僕は激しい後悔の波に襲われた。