月光蝶



「……変な蝶々がいる」



 利香のその一言で僕は我に返った。



(本当に、あの日に戻ってきたのか……)



 目の前には桶に止まった月光蝶。

僕は利香の手を取り、蝶の元まで近寄った。



「この蝶はね、お願い事を叶えてくれる蝶々なんだ。利香、何かお願いしてみなよ」



 二度目の蝶探しを決意した時……父を死なせてしまった償いの意味も込め、僕は今度は利香の願いを叶えてやろうと決めていたのだ。



「本当に?」



 利香は僕が教える通りに小さな手で水面を掬い上げた。

そして両の目をすっと閉じ、数秒。


蝶は、月へと向かい飛び立っていった。



「蝶々さん、利香のお願いきいてくれるかな?」

「……あぁ、きっと叶えてくれるよ」



 僕は少し濡れたままの利香の手を取り、穏やかな気分で家へと向かった。




< 8 / 10 >

この作品をシェア

pagetop