月光蝶
「……変な蝶々がいる」
利香のその一言で僕は我に返った。
(本当に、あの日に戻ってきたのか……)
目の前には桶に止まった月光蝶。
僕は利香の手を取り、蝶の元まで近寄った。
「この蝶はね、お願い事を叶えてくれる蝶々なんだ。利香、何かお願いしてみなよ」
二度目の蝶探しを決意した時……父を死なせてしまった償いの意味も込め、僕は今度は利香の願いを叶えてやろうと決めていたのだ。
「本当に?」
利香は僕が教える通りに小さな手で水面を掬い上げた。
そして両の目をすっと閉じ、数秒。
蝶は、月へと向かい飛び立っていった。
「蝶々さん、利香のお願いきいてくれるかな?」
「……あぁ、きっと叶えてくれるよ」
僕は少し濡れたままの利香の手を取り、穏やかな気分で家へと向かった。