若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
一章
都心にある二十三階建てマンション、その最上階の一室。
東京タワーを間近に臨む寝室の窓はわずかに開き、ひんやりとした夜の空気が流れ込む。
明かりもついていない部屋の中、キングサイズのベッドの上で衣擦れの音が小さく響いた。
「れっ、蓮さん、落ち着いてください」
動揺し声を震わせながら求めるけれど、私を見下ろす瞳の圧も、ベッドに押し付けるように右手を掴む力も、少しも和らいでくれない。
いつも冷静なのにいったいどうしてしまったのという疑問が動揺を加速させ、自分の身に起きている事態になかなか理解が追いつかなかった。
普段は彼ひとりで眠っているベッド。
今そこでなぜか私、富谷里咲は、彼、八津代蓮に組み敷かれている。
猫毛みたいに柔らかそうな黒髪、透明感のある白い肌。
冷たくも見える切れ長の瞳に見下ろされて、感じ取るのは憤りだけじゃない。
垣間見える艶っぽさにぞくりと体が震えた。
焦るままに「蓮さん」と再び呼びかけた口が柔らかなもので塞がれる。
蓮さんにキスされた。
呼吸を忘れるほどの甘い一瞬に言葉は出ないものの、この状況に私は完全に怖気付いてしまっていた。
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