若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
そんな私の態度が癪に障ったのか、彼は目をすっと細めて冷たい眼差しを返してくる。
「俺たちは結婚を約束してるんだ。これくらいで驚くなよ」
吐き捨てられたそのひと言にさらに私は混乱し、瞳を揺らした。
確かに彼の言う通り、私たちは間違いなく婚約している間柄で、この家で共に暮らしている。
だけど、口づけを気軽にするような関係ではない。
なぜなら、私たちの関係はいつか必ず解消するという前提のもとに成立しているからだ。
婚約してから一年が過ぎた。
ずっと一つ屋根の下で暮らしてきたけれど、今の今まで触れ合ったことは一度もなかった。
彼は仮初めの婚約者である私に恋愛感情など抱いていない。
私はただの同居人でしかなく、その心の中には他の女性がいるものだと思っていたのに……どうして、こんなことになっているのか。
「里咲」
名前を甘く呼びかけられただけで、鼓動がひと際大きくなり、自分の中にある秘めた想いに胸が苦しくなる。
今度はゆっくりと確実に狙いを定めるように、蓮さんの美麗な顔が近づいてきた。
拒絶するなら今だと彼に眼差しで語りかけられ、思わず左手で彼の胸元に触れたけれど、突き飛ばすことなどできなかった。