若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
小さな含み笑いから続いた渡瀬先輩の言葉が、私の心を深く抉る。
聞かされた蓮さんの思いがショックで、頭の中が真っ白になっていく。
「さようなら、富谷さん」
最後にそう告げて、渡瀬先輩は蓮さんの向かった先へと歩き出す。
私はただ唇を噛んで、しばらくその場に立ち尽くしていた。
茫然自失のままなんとか家に帰り、時折涙を流しながら、自室のベッドに横になる。
日が暮れて、徐々に室内は薄暗くなってくるが電気をつける気力も湧かず、ただぼんやりと天井を見上げていた。
枕元に置いてあったスマホが突然鳴り響き、ゆっくり視線を移動させる。
表示されていたのは見知らぬ番号で、ためらいながらも「はい」と暗いトーンで電話を受けた。
「……富谷? 俺、八津代だけど」
聞こえてきた声音と名前に数秒動きをとめた後、勢いよく身を起こした。
「せっ、先輩!?……え? ど、どうして私のスマホに八津代先輩が?」
「バスケ部の一年の後輩から電話番号聞いたんだ。今どこにいる?」
「家にいますけど」
「よかった。俺、実は今、富谷旅館の前にいて……渡したい物があるんだけど、出てこられるか?」