若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
「富谷旅館の前?」と頭の中で蓮さんの言葉を繰り返してから、私は慌ててベッドを降りた。
「はい! すぐに行きます、待っててください!」
通話を切って、あたふたと部屋の中をうろうろしたのち上着を羽織ると、迷いながらも机の上に放り投げてあったプレゼントの箱を掴み取って、上着のポケットへ押し込んだ。
部屋を飛び出してから、可愛くもなんともない部屋着を着替えてくればよかったかなと後悔しても、足はどんどん前へと進んでいった。
髪を手櫛で軽く整えつつ、時折足をもたつかせながら自宅を飛び出した。
自宅は旅館の裏側に位置しているため、庭を通って旅館の正面へと進んでいく。
「八津代先輩!」
蓮さんはまだ制服姿で、正面玄関から少し離れたところに俯き加減で立っていた。
「こんな時間に悪い」
開口一番謝られて、私はゆっくりと首を横に振る。
「それからさっきはごめん」
そして伏し目がちに、何より苦しそうに繰り返された謝罪に、私はさっきよりももっと大きく首を横に振った。
「もう先輩とは会えないかなって思ってたから、来てくれて嬉しいです」