若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
受付を済ませたところで、「ヤツシロさんとこの蓮君じゃないか」と渋めの男性の声が早速かけられる。
踵を返した蓮さんに続くように、私も背筋を伸ばして振り返る。
「加々澤さん、ご無沙汰しています」
そして彼に習うようにお辞儀をした私に、加々澤さんが「おや」といった様子で目を止めた。
「そちらのお嬢さんは?」
「彼女は富谷里咲さん。俺の婚約者です」
「そうか。蓮君が婚約したとは聞いていたけれど、とても可愛らしいお嬢さんじゃないか」
褒められて、私は「ありがとうございます」ともう一度軽く頭を下げた。
加々澤さんは六十代くらいで少し白髪まじりではあるが、私よりも背が高く姿勢も良く、声同様見た目も貫禄がある。
「ヤツシロは力のある後進が育っていて羨ましい限りだ。加々座屋もそろそろ世代交代を視野に入れねばならないが、うちの息子はまだまだ甘ったれで」
その言葉に思わず反応する。
目の前にいるこの男性は、ヤツシロと同じく老舗で名の通った和菓子店、加々座屋の社長だろう。
そんな方とも気負うことなく会話を続けられる蓮さんもやっぱり大物だと思うし、誇らしくも感じる。