若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~

有名な和菓子職人やパティシエがいるかもしれないときょろきょろしたくなるのをぐっと堪えて、私は蓮さんの隣で淑やかに笑みを浮かべ続けた。

和菓子が無形文化遺産に登録された話題から、なぜか私のことへと話が移ろう。

蓮さんのお祖父さんが「富谷旅館」のファンだと知っていたらしく、私の名字を聞いてまさかと問いかけてくる。

富谷旅館の娘だと認めると、実は加々澤さんも何度か宿泊してくれていたようで、料理に露天風呂、部屋までも良かったと褒めてくれた。

今度また泊まりに行かせてもらうよと約束してくれたところで、加々澤さんの元へ五十代後半くらいと私と同年代の女性が歩み寄ってきた。

年齢から察して奥さんと娘さんだろう。


「あら蓮君、こんにちは」


蓮さんへの挨拶に続いて奥さんの視線がこちらに向いたため、慌ててお辞儀をする。

「蓮君の婚約者の方だよ」と加々澤さんが説明すると、奥さんは「あらそう」と少し残念そうに呟いた。

そして、同じく父の言葉を聞いていた娘さんが「あぁ、あなた!」と驚き顔で私を指さす。


「確か、蓮君と同じ部活の後輩マネージャーだった子よね」

「……えっ。あ、はい。そうです。バスケ部のマネージャーをしていました」


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