若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
なぜ分かったのか不思議になって蓮さんへ視線を向けると、彼は「俺の同級生だ」と囁いて教えてくれた。
部活を除いては上級生や下級生と交流を持たなかったため、見覚えがないというのが正直なところだが、相手にとってはそうでないようだった。
「もしかして高校から付き合ってる? ふたり仲良かったもんね」
「ち、違います。一年ほど前にお見合いをして、それからです」
誰かの記憶に残るほど私と蓮さんは仲が良かっただろうか。
苦笑いしつつ否定したところで、やってきた男性が加々澤さんに話しかけたため、蓮さんと私はその場を離れることに。
にこやかに手を振ってくれている娘さんに対して何度か頭を下げたあと、私は蓮さんの横に並んで小さく息をつく。
「世間は狭いですね。……でも、私のことを覚えているなんて。びっくりしました」
「そう言えば、よく聞かれた気がするな。里咲のことをどう想ってるのかって」
ずっと不思議だったが、そのひと言で腑に落ちた気がした。
もしかしたら、彼女も蓮さんが好きだったのかもしれない。
部活でよく話をしていた私の存在をずっと気にかけていたから、覚えていたのだろう。