若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
しかし歩き出すよりも先に蓮さんが男性に声をかけられる。
話し出した様子から長くなりそうな気配を察知し、私はこそっと「お手洗いも行きたいので、私は先に行っていますね」と蓮さんに話しかけてから男性に会釈し、その場を後にする。
ヤツシロの和菓子は見た目も味も繊細だと評判で、その跡取りである蓮さん自身も注目されているのが、ここに来たことではっきりとよく分かった。
そんな彼に婚約者と紹介されるたび恐縮する。
見た目も中身もハイスペックな蓮さんと、平凡な私とではやっぱり不釣り合いに感じられてしまうのではと、怖気付いてしまうのだ。
蓮さんがまるで本物の恋人のように接してくれるから忘れそうになるけれど、所詮、私たちは今だけの関係。
周りに不釣り合いに感じられようが、私は偽物なのだから気にする必要なんてない。
そう頭で割り切ろうとするけれど、それでもやっぱり心の中にある重苦しさはうまく払拭できなくてため息が出る。
お手洗いを探しつつ休憩所の横を通ろうとした時、女性の楽しそうな笑い声が聞こえてきて自然と目がそちらに向く。
自動販売機の近くに初めに挨拶した加々澤さんの奥さんと娘さんがいた。