若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
奥さんはテーブル席に座って、ゆったりとした様子で飲み物を飲んでいて、娘の方は自動販売機の前でスマホ片手に盛り上がっている。
「びっくりしちゃったわ。蓮君と結婚するのは千秋だと思ってたから。……あぁ、ごめんごめん。結婚はしてないわね。まだ婚約者だった」
飛び出した名前で通話の相手が渡瀬先輩だと気づき、思わず背の高い観葉植物の影に身を隠す。
同級生だから繋がっていても何もおかしくないけれど、姿はなくても渡瀬先輩の影がチラつくと、怖くて萎縮してしまう。
「でも千秋がいるから、蓮君を諦めたようなものなのに。どうして今彼の隣にあの子がいるの? あんなどこにでもいるような子が相手なら、私諦める必要なかったじゃない」
その口調で、高校時代の記憶がよみがえる。
ある時、上級生の女子数人に呼び止められて、蓮さんとの関係を聞かれたことがあった。
その中にいた喧嘩腰であれこれ言ってきた女子と、記憶が重なる。
顔ははっきり覚えていないけれど、もしかしたら同じ人かもしれない。
そんなことを考えていると、彼女は通話を終えて、母の隣の椅子に腰掛けた。