若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
こぼれ落ちそうになったため息を我慢しつつ、気付かれる前にここから離れようとしたが、再び聞こえてきた会話に足が止まる。
「千秋が諦めたなら、私もう一度頑張ってみようかな。蓮君、やっぱり格好良いもの」
「お父さんも、蓮君の相手はワタラセフードシステムの娘さんだと思っていたみたいで、全く違う子だったから驚いてたわ……そうね、お見合いだったみたいだし、うまくいくかもしれないわよ」
興味津々に身を乗り出してきた娘を横目で見つつ、奥さんは勿体ぶるようにコーヒーを一口飲んで続ける。
「彼女を勧めたのは社長でしょ? 蓮君はお祖父さんっ子だって言うし、断り切れず仕方なしにって感じだったんじゃないかしら。良い子そうだったけど、千秋ちゃんの方が華があるし、蓮君も物足りなく感じてるでしょうね。折りを見て婚約解消する気でいてもおかしくない」
痛いところを突かれて、胸が痛む。
すべてその通りかもしれないと、私は唇を噛む。
「試しに話を持ちかけてみましょうか。ワタラセフードシステムならともかく、富谷旅館よ。うちとどっちが良いか、ヤツシロ側もわかるでしょ?」