若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
「そうして!」と興奮気味に響いた声から逃げるように、私は静かにその場を離れた。
ふらつきながら受付の方へ戻っていくと、ちょうど会場から蓮さんが出てきた。
目が合うなり、僅かに眉根を寄せて小走りでそばにやってくる。
「どうした?」
「……どうもしないよ」
「嘘つけ、顔色が悪い。大丈夫か?」
そっと蓮さんが私の額に手を押し当てた。
眼差しが優しくて、心配してくれているのがしっかり伝わってきて、胸が苦しくなる。
「熱は無さそうだな」
「本当になんでもないです」
そう言って笑いかけようとしたけれど、会場から出てきた加々澤さんに気づいた途端、蓮さんの手から身を引くように、足が無意識に後ずさる。
奥さんと娘のやり取りを思い出し、顔も強張ってしまった。
加々澤さんは通りすがりに「仲良いね」と私たちに笑顔で声をかけ、そのまま奥さんと娘のいる休憩所へ向かって進んでいった。
「何か飲み物を買って来ようか?」
「いっ、要らないです!」
休憩所の方を見つめながら歩き出そうとした彼の腕を両手で掴んで引き止める。
驚いた顔で見つめられれば、すぐに気まずくなり、「ごめんなさい」とそっと手を離した。