若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
「私のことは良いので、会場に戻りましょう」
私のために時間を使わせることは、彼の足を引っ張っているようで、内心焦りながらも出来るだけ明るくそう言う。
彼から納得いかないような声で「……あぁ」と返され、目を合わせていられなくなり、私は「行きましょう」とひとり先に歩き出した。
展示会終了時刻まで一時間を切ったところで、蓮さんが「先に帰りますので、後はよろしくお願いします」とヤツシロの展示会責任者に声をかけ、私を引き連れて会場を後にした。
そのまま私たちは、どこにも寄らずに真っ直ぐ帰宅する。
さっきの私の態度に対して何か言われるかなと思ったが、車の中や帰宅後の夕食時も、蓮さんはそのことに触れることはなかった。
夕食後、彼は自室にこもり、パソコンに向かって仕事を始めたため、それ以上の会話をすることなくひとりお風呂に入り、そのまま私も自分の部屋へ。
布団にごろんと横になり今日の出来事をぼんやり思い返していると、蓮さんが部屋から出てきて、浴室へと向かっていく足音を耳が拾う。