若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
「何を聞いたのか分からないが、里咲は地味じゃない。可愛らしいってみんな褒めてたし……もちろん誰よりも俺が一番、里咲を可愛いと思ってるけど」
最後に追加された少し照れているようにも見える告白に、思わず目を大きくする。
「富谷旅館が好きだって、いい旅館だって言う人も実際多い」
額にそっと口づけた彼の唇が、今度は私の唇を捉えようとして、つい顔を背けてしまった。
今日のイベントで挨拶した人々も、直接蓮さんに婚約者の私を見下すようなことは言わないだろう。
無難に褒めつつも、心の中では婚約者が渡瀬先輩でなく私なことに驚き、比べると華がないと思っていたかもしれない。
「婚約者の振りをしているのはバレてなくても、いつか私たちが婚約破棄する点に関しては見破られていますよ」
目に涙を浮かべて声を震わせながら告げると、そっと大きな手が頬に触れ、彼と視線が繋がる。
「俺は里咲とこのままでいたい。偽りではなく本物の婚約者に、恋人なって欲しい」
「……そ、そうは言っても、折りを見て婚約破棄するつもりなら」
「破棄はしたくない」
力強いひと言に言葉が出てこない。
振りではなく本当に蓮さんの恋人になれるのかと思うと、嬉しくて心が震えだす。