若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
三章
旅館での仕事を終えて、蓮さんとの待ち合わせ場所となっているヤツシロ本店へ向かう。
約束した時間は午後六時半。
あまり早く行き過ぎてもヤツシロの店員さん達に迷惑だろうと、ちょうど時間ぴったりで暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ。あら、里咲ちゃん。こんばんは」
ショーケースの前に立っていた女将さんがすぐに反応を示してくれて嬉しくなるも、浮かべた笑顔はすぐさま強張ってしまう。
女将さんの隣には渡瀬先輩がいて、鉢合わせてしまったタイミングの悪さに苦々しさを覚える。
渡瀬先輩に会釈をするが、彼女は顔を背けた。
気まずさから店の外に出てしまおうか考えていると、女将さんが「そうだわ」と明るい声で微妙な空気を吹き飛ばす。
「この前はお疲れ様。みんなから里咲さんを可愛らしいって褒められて、蓮はとっても鼻が高かったみたい」
この前の展示会の話だろう。
女将さんはくすくすと思い出し笑いをしながら、そう言ってくれた。
「いえ。私は気の利いた話もできなくて、ただ蓮さんの隣に立っているだけでしたから」
「ああいう場は、隣に立っているだけでも気疲れするものね。本当にお疲れ様」