若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
黒毛和牛のフィレ肉へとナイフを入れた手を止めて、蓮さんがどうしたのかと眼差しで問いかけてくる。
僅かに迷ったが、黙っていることでもないと、心の中にある漠然とした不安を伝えるべく口を開く。
「私がヤツシロの本店に到着した時、渡瀬先輩がいて。……別に何があったわけでも無いんだけど、ちょっと不安になってしまって」
流石に蓮さんの副社長就任をあまりよく思っていないようだったとは言えない。
私が言葉を選びながら言い終えると、蓮さんはナイフとフォークを置いて、「あぁそういえば」と呟いた。
「少し前に渡瀬からメッセージが届いてた。副社長就任のお祝いをしたいから今度食事をしようって。その話をしたか?」
質問に頷いて答えると、蓮さんは腑に落ちた顔をした。
「前もって教える必要も義理もないから、事後報告だけするつもりでいたんだ。でも知っていて、てっきり航から聞いたんだと思ってた」
そっと差し出された手に自分の手を重ね置くと、優しくぎゅっと握り締められた。
彼の手の温もりに不安が和らいでいく。