夜風のような君に恋をした
「じゃあ、行こっか」

冬夜が、再び歩き出す。

皺にならないように注意して彼のシャツを握りながら、私もそのあとに続いて、階段を下りた。

遠く、パトカーのサイレン音が響いている。

夜の世界は今日も色とりどりのネオンが溢れ、せわしない。

水色のシャツの背中をしっかりこちらに向けている冬夜は、振り返る気なんてさらさらなさそうだ。

だけどゆっくりめの歩調から、シャツで繋がっている私を意識してくれているのがわかった。

私のとは違う、K高の制服。

K高は、共学だ。

うちの学校には女子しかいないけど、冬夜の学校には男子も女子もいる。

爽やかキャラを演じているらしい彼は、見た目もいいし、きっと学校では女子に人気があるだろう。

同じクラスの女子と話すとき、彼はどんな話し方をして、笑い方をするのだろう?

無意識にそんな妄想に駆られ、慌てて頭の中から追い払った。

考えてはいけないことのような気がしたからだ。

「……そういえば冬夜って、どうしてこんな時間に制服着てるの?」

「雨月だって着てるじゃん」

「私は学校から直接塾に行ってるから、着替える時間がないの。冬夜もそうなの?」

「俺は塾には行ってないよ。家に帰っても着替えずに、風呂まで制服で過ごしてるだけ。洗濯物、増やしちゃ悪いだろ」

何気なくつぶやかれた言葉から、冬夜が血の繋がらないお母さんに気を使っているのが伝わってきて、胸ちくっと痛んだ。

「そうなんだ。優しいんだね」
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