夜風のような君に恋をした
「優しくなんかないよ。死にたがりだし」

そうやってまた、自嘲気味に笑う冬夜。

階段を下りた私たちは、夜の歩道を突き進む。

「家、どっちの方向?」

「こっち。まっすぐ行って、歯医者さんのところを右に曲がればすぐそこだよ」

「了解」

冬夜のシャツを掴んだまま、ふと夜空を見上げる。

今夜は、煌々と輝く満月だ。

そのせいか、街灯が少なく暗い道が、いつもより明るい。

目の前を行く、私よりも背の高い冬夜の後ろ姿もしっかり見える。

「冬夜ってさ、細いよね」

「雨月に言われたくないよ」

「ちゃんとご飯食べてる?」

「食べてるよ。もうちょっと身長伸びて欲しいから」

「死にたがりのくせに、身長伸びて欲しいの? ていうか、もう充分高いと思うけど」

「弟に抜かされたら嫌だからな」

家々から漏れる明かりと、家族の団らんの声。

夜道を歩きながら、楽しそうな家族の笑い声を耳にするのは苦手だ。

自分がひとりだということを、思い知らされるから。

だけど冬夜と夜道を行く今は、それほど気にならなかった。

死にたがり同士の私たちでも、こうやって一緒にいれば、少しだけ強くなれるらしい。

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