夜風のような君に恋をした
そうこうしている間に、幼稚園のときから通っている、フクロウの看板がトレードマークの歯医者さんにたどり着く。

この角を曲がれば、家まではあと十メートルほどだ。

満月のおかげか、いつもよりフクロウの絵が色鮮やかに見えた。

「ここまででいいよ、あの大きな煉瓦の家の向かいがうちだから」

立ち止まってそう言うと、冬夜が心配そうに聞いてくる。

「本当に、大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「やっぱ、家の前まで行くよ」

「それはちょっと……。実はね、うちのお兄ちゃん、K高だったの。だけど途中から行けなくなっちゃって、あまりいい思い出がないんだ。もしもお母さんがK高の制服着てる冬夜のこと見たら、昔のこといろいろ思い出して、動揺するかもしれない。だからごめんね、ここで大丈夫」

それに男の子と一緒に帰ってきた私の姿を見たら、お母さんがどういう反応をするのか、想像もつかなくて怖いというのもある。

「そっか、なら仕方ないな。じゃあ、雨月が家の中入るまで、この電柱の陰に隠れて見てるよ。見えないかもしれないけどちゃんといるから、安心して中に入れよ」

「……うん、ありがとう」
知らなかった。

冬夜って、こんなに優しいんだ。
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