夜風のような君に恋をした
だからこそ、自分でいろいろなことを背負い込んで、この世界に嫌気が差してしまったかもしれない。

似ているようで、私と冬夜は違う。私は優しくなんかない。

お兄ちゃんは大嫌い、芽衣は苦手。

そんなことを言ってばかり。

急に冬夜を遠い存在に感じてしまったけど、彼のその意外な一面をいいなとも思った。

死にたがりのくせに優しいなんて、変な人。

「じゃあね、冬夜」

「じゃあな、雨月」

冬夜のシャツからそっと手を離し、家に向かって歩き出す。

家に入る直前、立ち止まって振り返ったけど、言葉通り冬夜の姿は見えなかった。

それでもあの電柱の陰にいるんだと思うと、勇気が湧いてくる。

そして見えない彼の手に背中を押されるようにして、私は地獄のようなわが家へと、どうにか足を踏み入れることができたのだ。
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