夜風のような君に恋をした
今夜のことに思いを馳せていると、甘ったるい芽衣の声が耳に響いた。
うわっと思いはしたが、いつものように顔には出さない。
「芽衣。今日、まだ会ってなかったね、おはよ~」
「おはよう」
今日は制服の上にベージュのカーディガンを羽織っている芽衣が、目の前でニコッとする。
手には、ふわふわ熊キャラのケースに入ったスマホを持っていた。
「この間の話、彼氏から友達に伝えてもらったよ。残念そうだったけど、雨月ちゃんに好きな人いるならしょうがないねって言ってたって」
「そっか。なんか、ごめんね」
「仕方ないよ、気にしないで! それで、その好きな人とは進展あったの?」
「好きな人っていうか、気になる人なんだけど……」
言葉を濁していると、芽衣が手にしたスマホがブルブル震えた。
「あ、彼氏からメッセージだ!」
うれしそうに画面をタップする芽衣。
「午前中にメッセージくれるなんて珍しいんだけど! 何かあったのかな」
そう言いながら早くも返信を打ち込んだ芽衣は、スマホをカタンと私の机の上に置く。
芽衣の彼氏になんて、何の興味もなかった。
だけどそのとき私は、芽衣のスマホの画面に映った、“かっぱらっぱ”の画像に目を留める。
メッセージアプリの、彼氏のプロフィールアイコンのようだ。
”かっぱらっぱ”とは、ちょっと前に流行ったアニメで、河童とラッパが合体した主人公が日々奮闘するというギャグアニメ。
とっさにまじまじと見てしまったのは、以前冬夜から、”かっぱらっぱ”の話を耳にしたことがあるからだろう。
あのときは懐かしいって思ったけど、こうしてプロフィールアイコンに使っている人がいるってことは、まだそこそこ流行っているみたい。
そして私は、その”かっぱらっぱ”の画像の下にある名前を見て息が止まりそうになった。
“市ヶ谷くん”
そこには、紛れもなくそう記されていた。
『お前は相変わらず爽やかだな、市ヶ谷』
いつだったか、電車の中で聞いた声が耳によみがえる。
冬夜の苗字だった。
市ヶ谷なんて苗字、そんなにないと思う。少なくとも私は、彼以外で会ったことない。
「……芽衣」
おそるおそる発した私の声は、自分でも嫌になるほど、語尾が少し震えていた。
ドクンドクンと、心臓が不穏な音をたてている。
「彼氏の写真って、ある?」
うわっと思いはしたが、いつものように顔には出さない。
「芽衣。今日、まだ会ってなかったね、おはよ~」
「おはよう」
今日は制服の上にベージュのカーディガンを羽織っている芽衣が、目の前でニコッとする。
手には、ふわふわ熊キャラのケースに入ったスマホを持っていた。
「この間の話、彼氏から友達に伝えてもらったよ。残念そうだったけど、雨月ちゃんに好きな人いるならしょうがないねって言ってたって」
「そっか。なんか、ごめんね」
「仕方ないよ、気にしないで! それで、その好きな人とは進展あったの?」
「好きな人っていうか、気になる人なんだけど……」
言葉を濁していると、芽衣が手にしたスマホがブルブル震えた。
「あ、彼氏からメッセージだ!」
うれしそうに画面をタップする芽衣。
「午前中にメッセージくれるなんて珍しいんだけど! 何かあったのかな」
そう言いながら早くも返信を打ち込んだ芽衣は、スマホをカタンと私の机の上に置く。
芽衣の彼氏になんて、何の興味もなかった。
だけどそのとき私は、芽衣のスマホの画面に映った、“かっぱらっぱ”の画像に目を留める。
メッセージアプリの、彼氏のプロフィールアイコンのようだ。
”かっぱらっぱ”とは、ちょっと前に流行ったアニメで、河童とラッパが合体した主人公が日々奮闘するというギャグアニメ。
とっさにまじまじと見てしまったのは、以前冬夜から、”かっぱらっぱ”の話を耳にしたことがあるからだろう。
あのときは懐かしいって思ったけど、こうしてプロフィールアイコンに使っている人がいるってことは、まだそこそこ流行っているみたい。
そして私は、その”かっぱらっぱ”の画像の下にある名前を見て息が止まりそうになった。
“市ヶ谷くん”
そこには、紛れもなくそう記されていた。
『お前は相変わらず爽やかだな、市ヶ谷』
いつだったか、電車の中で聞いた声が耳によみがえる。
冬夜の苗字だった。
市ヶ谷なんて苗字、そんなにないと思う。少なくとも私は、彼以外で会ったことない。
「……芽衣」
おそるおそる発した私の声は、自分でも嫌になるほど、語尾が少し震えていた。
ドクンドクンと、心臓が不穏な音をたてている。
「彼氏の写真って、ある?」