夜風のような君に恋をした
私の突然の申し出に、「ええ、あるよ~。見る?」と芽衣はにこやかに笑う。

ようやく言ってくれた、というような声の弾み具合で、芽衣はずっと私に彼氏の写真を見せたかったんだなって、何となく感じ取った。

「はい、この人」

少し照れくさそうに、だけど素早く、彼氏の写真をスマホに表示してくれた芽衣。

公園だろうか? 

初々しい緑をバックに画面に映る制服姿の彼を目にするなり、全身から血の気が引いていくような感覚がした。

サラサラの黒い髪。

いつもは全部下ろしている髪をこの画像では真ん中分けにしてるけど――そこにいたのは、冬夜だった。

水色のYシャツにボーダーのネクタイ。見慣れたK高の制服。

爽やかな笑顔を浮かべる彼は、顔はそっくりでも、いつも夜に見る彼とは別人みたい。

朝、電車の中で遠目に見る彼の姿そのものだ。

頭の中が真っ白で、なんと声に出したらいいかわからない。

だけど何かを言わなくちゃって、ギリギリの思考で考える。

「……かっこいいね」

「うん、そうなの。ダメもとで告白したんだけど、まさかいいって言ってくれるとは思わなかった」

はにかみながら答える芽衣の声も、どこか遠くで鳴り響いているみたい。

ああ、そうか。

冬夜は芽衣の彼氏で、芽衣のものだったんだ。

芽衣は知ってるのだろうか、冬夜が死にたがりだってこと。

いいや、違う。

彼女がいるのに、居場所があるのに、死にたがってるなんてことがあるのだろうか?

冬夜は、私を騙してた――?
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