夜風のような君に恋をした
今すぐに罵りたい衝動を、ぐっと欄干を握り込むことで耐え忍んだ。

「……そっか、そうだよね。ごめん」

やがて自ずと口から漏れたのは、日頃から癖になっている愛想笑い。

冬夜の前だけでは、本当の自分を隠さないつもりだったのに、まるでお母さんや芽衣といるときみたいに、優等生のフリをした。

そんな私に冬夜は違和感を抱いたようで、眉をひそめる。

「どうかした? なんか今日の雨月、変だ」

そう言って、きれいな顔を近づけてくる。

私はいたたまれなくなって、彼の視線から逃れるように、顔を逸らした。

私がどんなに自分を演じても、誰も演技だとは気づかないのに、冬夜だけはすぐに見抜いてしまうのがつらい。

「変なんかじゃないよ」

「変だよ、無理して笑ってる」

お願いだから、冬夜も皆と同じように、私の演技に騙されて欲しい。

じゃないと、余計に苦しいから。
 
いよいよ煮詰まった私は、いよいよわけがわからなくなる。

私を騙していた冬夜はズルい。

悔しい、悔しい、悔しい。

いや、悔しいんじゃない……もしかして、これは嫉妬?
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