夜風のような君に恋をした
気持ちの処理が追いつかなくなって、どうすることもできなくなった私は、何も言わずにここから去ることにした。

階段に向けて、スタスタと速足で歩く。

「え? 待てよ」

後ろから冬夜が追いかけてくる足音がして、夢中で階段を駆け降りる。

車のヘッドライトやテールランプ、お店の看板。色とりどりの光が揺らめく夜道を走って走って――ふと横断歩道の手前で足を止め、後ろを振り返ってみたけと、冬夜は追ってきてはいなかった。

がっかりした気持ちがどっと肩から下りてきて、そのとき私は、冬夜に追いかけてきて欲しいって思っていたことに気づく。

私、本当にめちゃくちゃだ。

こんな自分が、いつも以上に大嫌い。

いつも以上に深い闇の中を、ひとりでとぼとぼと歩いた。

馴染みの歯医者さんのフクロウの看板が見えてきて、この間冬夜が送ってくれたことを思い出す。

私の毎日は、息が詰まりそうなほど窮屈だった。

お母さんの期待に応えるために、家でも学校でも理想の自分を演じて、本当の自分がどこにいったのかすらわからなくなっていた。

もう死んでもいいやって、いつも思っていた。
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