夜風のような君に恋をした
また、あの日の夜のように、『こっちにおいで』と闇が手招きする。

それでも俺は、震える衝動をどうにか胸で食い止めた。

――今までとは、何かが違うと思ったんだ。

あの夜、この場所で雨月に出会って、それから何度も話をした。

雨月の悲しげな顔に、笑った顔。

そして家に帰りたくないと行ったときの怯えた小動物のような顔に、家の近くまでついて行ったときのホッとしたような顔。 

記憶の中の映像が繰り返し頭の中を流れて、飛び込むのをためらってしまう。

今にして思えば“死にたがりこじらせ部”なんていう無茶苦茶な部の発足を口から出まかせに持ちかけたのは、もう二度と会うことがないであろう彼女と、少しでも繋がりが欲しかったからなのかもしれない。

雨月は、怖いほど自分によく似ていたから。

真っ暗闇の世界で、細く輝く糸を掴むように。初めて会ったあの日、夜の闇に溺れそうになっている彼女に、俺は無意識のうちに救いを求めたんだろう。

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