夜風のような君に恋をした
「さあ、どうだろ。今は何とかやれてるけど、そのうちヤバくなっていくんじゃないかな」

愛想笑いで謙遜しながら、ふと、雨月のことを一輝に聞いてみようかと思いついた。

ふたりとも、この高架の先にある駅前の塾に通っていると言っていた。塾は複数あるけど、帰る時間帯も学年も一緒だし、知り合いの可能性は充分ある。

「一輝。あのさ」

「うわ、ここ意外と夜景きれいだな~。俺さ、高いところ苦手で、いつも横断歩道通って帰ってたんだよな」

夜の景色を見下ろしながら、はしゃいだ声を出している一輝。

「で、何か言ったか?」

「……いや、なんでもない」

「なんだよ? 変なやつだな。俺に会えてそんなにうれしかった?」

ハハハ、と照れながら笑っている一輝に、俺も誤魔化すように「まあ、そんなとこ」と笑みを返した。

雨月のことを、これ以上深く知ってしまうのが、何となく怖くなったんだ。

希薄だからこそ成り立っている俺たちの関係は、中学はどこだとか、部活は何だとか、そんな実体を伴ってしまったら、崩れてしまうんじゃないだろうか。

お互いを深く知らないからこそ、わかり合えている関係だから。

少なくとも俺は、そう思っている。
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