夜風のような君に恋をした
そう言いながらふたりのそばに寄ってきた恵里さんは、声は怒っているけど、やれやれといった幸せそうな顔をしていた。

これも、俺の前では決して見せることのない、家族の前だけの顔。

俺には到底入れない、家族の特別な時間が、目の前で繰り広げられていた。

いたたまれなくなった俺は、その光景からそっと視線を外して、階段を上る。

自分の部屋は、真っ暗で温もりのかけらもなく、まるでこの家からこの部屋だけが切り離されているみたいだった。

電気もつけずに、ベッドに身を投げる。

真っ暗な天井に、冷ややかな空間。そして、階下から響く楽しそうな笑い声。

どうしようもないほどの疎外感に襲われて、息が苦しい。

心臓がドクドクと鼓動を速め、俺は自分で自分の身を守るように、膝を抱えた。

――『“かっぱらっぱ”って、あのほんわかしたアニメ? 懐かしくない?』

いつしか、雨月と”かっぱらっぱ”の話をしたことを思い出していた。
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