夜風のような君に恋をした
今日は、塾のない火曜日。

九月もいよいよ終わりに近づいているせいか、今朝からぐっと気温が冷え込んで、午前中はくしゃみが止まらなかった。

「あれ? 雨月ちゃん、なんか顔が赤くない?」

昼休憩。

いつものようにお弁当の袋を持って私の席までやってきた芽衣が、開口一番、心配そうに声をかけてきた。

「うん。ちょっと、風邪引いたみたい」

また、くしゅんと小さなくしゃみが出る。

すぐに芽衣がポケットからティッシュを取り出して、「はい」と渡してくれた。

ふわふわ熊キャラのポケットティッシュ。こんな些細なグッズに至るまで、かわいいもの好きの芽衣はぬかりがないのかと、感心してしまう。

「ありがとう、借りるね」

私は遠慮なく、鼻をかんだ。

あたりから漂うお弁当の匂いで胸焼けするくらい、今日は食欲もわかない。

ティッシュを渡すとき私の手に触れた芽衣が、心配そうな目をした。

「雨月ちゃん、熱くない? 保健室行こうよ、ついて行ってあげるから」

「うん……」

芽衣の優しさが、うれしくて胸が痛かった。

私、心の中で、芽衣のことウザいって思ってるのに……。

モヤモヤとした思いを抱えながら、私は芽衣の言葉通り、一緒に保健室に向かった。
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