夜風のような君に恋をした
ジャージかスウェット姿じゃないお兄ちゃんを見るのは久しぶり。

それよりも、真昼の外の世界の、まばゆいばかりの光の中にお兄ちゃんがいるなんて、違和感しかない。

あまりにも驚いた私は、熱があるのも忘れて、しばらくその場に立ち尽くしたままお兄ちゃんの姿に釘づけになっていた。

そのうち電車が来て、お兄ちゃんはうつむき加減のまま中に乗り込む。

発車のベルが鳴り、ドアが閉まった。

電車の窓際に立った、やっぱり下を向いたままのお兄ちゃんの姿は、ガタンゴトンと電車に揺られ、すぐに見えなくなった。

呆然としたまま、改札を出る。

お兄ちゃんに、いったい何があったのだろう?

まさか、ついに引きこもりから脱出したのだろうか?

でも、ただの勘だけど、そういう感じではなかった。

遠目から見ただけだけど、お兄ちゃんの目は、いまだ暗闇に向いているようにしか感じなかったから。
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