夜風のような君に恋をした
「雨月、ごめんね」

押し黙っていると、ふいにお母さんの声がした。

顔を上げると、悲しげに私を見ているお母さんが視界に映る。

「……え、何が?」

「あなたには、ずっと無理をさせていたと思うから」

まさかこのタイミングで、お母さんからそんなことを言われるとは思っていなくて、心臓が大きくドクリと鳴った。私は慌てて笑顔を作る。

あまりにショックなことを耳にして、神妙な顔をしてしまったから、お母さんを不安にさせてしまったのかもしれない。

「そんなことないよ。別に、無理なんてしてない」

だけどお母さんは笑みを作る私を見ても、いつものように笑い返してはくれなかった。

「お母さん、お兄ちゃんがあんなことになってしまって、どうしたらいいかわからなくなってしまったの。しっかり者のあなただけが、心の拠りどころだった。でも最近、よく疲れたような顔をしてたでしょ? 熱が出たのも、無理をし過ぎたせいなんだと思う」

「そんなこと……」

疲れた顔に見えたのは、きっと冬夜のことがあったからだ。

だからお母さんは勘違いをしている。

そう、これはただの勘違いなんだ。

バレてはいけない。

私は無理なんてしてない――。
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